兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、強制起訴されたJR西日本の歴代3社長。沈黙を通し続ける井手正敬被告(75)から社長職を引き継いだ南谷昌二郎被告(68)は、事故前の企業風土について「問題は感じていた。しかし、大規模な組織で十分に改革できなかった」と反省の弁を語った。
一方で「物言えば唇寒しみたいな雰囲気」と言い切った第3者委員会の指摘には「距離を感じる」。3被告の中で唯一、企業風土に言及した南谷被告の言葉には、事故の背景とされるJR西という巨大企業の体質を改革できなかった悔しさがにじんだ。
4月23日。事故の危険性を予見できたのに安全対策を怠ったとして、業務上過失致死傷罪で在宅起訴された歴代3社長。井手被告が沈黙を貫いたのに対し、垣内剛(66)と南谷の両被告はそれぞれJR西の本社前で記者団に囲まれ、沈痛な表情で「重く受け止める」と口をそろえた。
事故原因について、垣内被告は「私が申し上げるのは控えたい」とコメントを避けたが、南谷被告は事故の背景とされる企業風土に触れ、「現社長が一生懸命に取り組む改革の問題点は私自身も感じていた」と発言した。
佐々木隆之社長は「上意下達」の経営手法の改革に取り組んでおり、現場の声をくみ取る風通しの良い経営を目指す。この日、南谷被告は「国鉄の分割民営化で組織を立ち上げる努力の裏側で、そういう(上意下達の)問題があったということ」とも述べ、強すぎるトップダウンの経営手法の問題点を意識していたことを認めた。
JR西社員によると、南谷被告は平成9年から14年までの社長在任中に「それぞれの社員が指示待ちの状態でいいのか」と社内報などで呼びかけたことがあるという。前任者の強力なリーダーシップによって上意下達の企業風土を形成した強引な経営は「収益基盤の強化という当時の課題には応えた」と評価の声が上がっていた。しかし、長期的な鉄道利用者の減少傾向など新たな経営課題に、過去の成功体験に頼らない経営手法を模索したようだ。
佐々木社長も「井手氏はだれよりも現場を熟知していたため、今思うと部下と話して互いに納得して仕事をすることがなかった」と説明し、独善的と評された井手被告の影響力の強さをうかがわせる。
南谷被告は「大規模な組織で十分に改革ができていなかったかもしれない」と釈明したが、井手被告に対しては「会社を築き上げた仲間であり、厳しい上司だった」と配慮をみせた。その功罪を問われると「ご勘弁ください」と口を閉ざした。
さすがに「あそこまで断言できるのか」と南谷被告が話したのは、外部の識者でつくるコンプライアンス特別委員会の報告書だ。
「井手氏は現場が見えていないのにすべてわかったと慢心し、部下は我関せずで自己保身に走った」と断罪した内容には否定的な見解を示した。ただ、収益拡大を優先した事故前の経営判断には「物事をバランスよく進めることがいかに難しいかということ。後知恵になって分かることでは」と振り返った。
記者の質問に丁寧に答える表情には、風土改革を断行できずに流された悔悟の念が浮かんだ。
前任者の時代にできあがった強すぎる上意下達の風潮の打破に、思うようなリーダーシップを発揮できなかった“運命の皮肉”に苦しみ抜いた元経営者の姿がそこにあった。
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